DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~
「ああ、別に。好きに呼んでいいですよ」
「私の事は真紀子でいいわ。『さん』とか『君』とかもいらない。それから年上だからって、敬語を使わなくていいわ。何だかよそよそしい感じがしちゃって苦手なの。フレンドリーにいきましょう」
言いたい事をハキハキと伝え、真紀子は肩を竦めた。
(フレンドリーねえ。そんな事いう奴に限って、後で失礼だとか年下のクセになんて言い出すんだ)
千聖は頭の中でそう呟きながら「ああ、分かった」と答えた。
「で―― 早速だけど、あなた明日休みでしょ?私も休みだから、今夜仕事が終わったら何処かへ飲みに連れて行ってくれない?二人が出会った記念に」
途端に千聖はフッと笑った。
このあいだ永池物産の孫と城東銀行の頭取の娘の婚約披露パーティーで出会った、米村瞳の事を思い出したのだ。
「なあに?何かおかしな事言ったかしら?」
「いや……近頃は積極的な女性が多くなったなぁと思って」
「『積極的な女性が多い』ってあなたにアタックして来る人が多いって事?」
思わず黙った千聖に微笑むと、真紀子は「君は結構カッコイイからそれも仕方ないんじゃない?それに何処か秘密めいた雰囲気があって、魅力的だもの」と、あっさり言ってのけた。
「『女は待っているものだ』なんて時代はもう過ぎたのよ。思った事ハッキリ言って自己主張しなくちゃせっかくのチャンスも逃げて行くし、いい男だって手に入らないのよ。とにかく、まずは仕事に掛かりましょう」
一階へ降り立つと同時に、真紀子は千聖の腕を引っ張って歩き出した。