DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~
一日中歩き回り、やっと仕事から解放されたのは夜の十時。
それでもまだ早い方だ。
それは、テキパキと仕事をこなす真紀子の御陰と言っても過言では無かった。
千聖は連日の取材活動でクタクタに疲れていた。
しかし真紀子の強引な誘いを断りきれず、結局は藤塚駅近くのパブレストラン『エデン』に立ち寄っていた。
「二人の出会いに乾杯!」
希望が叶って真紀子は上機嫌だ。
千聖は、よくまあこれだけ強引な女性にばかり縁があるものだと我ながら感心していた。
「でも、本当に変わったわ。街の中って六年も経つと、凄く変わる物なのね」
「この辺は特に変わったよ。俺が子供の頃は大型スーパーが一店舗しかなくて買い物といえばそこだった。でも今はデパートも沢山あるし、高校や大学が多くあるせいかファーストフードや学生向けの店が多い。完全に学園都市だな」
ウイスキーのグラスを軽く揺らしながら答えた千聖に、真紀子が問い掛ける。
「千聖は子供の頃からここなの?」
「ああ」
「家、近い?」
「ああ。すぐそこのマンションだ」
「家族と一緒?」
「いいや」
「一人暮らしなの?」
千聖は答えられなかった。
未央のことが頭を過ぎったのだ。
「答えないって事は、彼女と同棲中って事かな?」
「そんなんじゃ無い!」
思わず強く否定した千聖を見て、真紀子はフッと笑った。
「可愛いわね」
「なんだよ、人を子供みたいに」
耳元で囁いた真紀子に、千聖はプイッと顔を背けた。
また真紀子が笑う。