DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~

「まあいいわ。ところで―― 千聖はどうして新聞記者になったの?」

「どうしてって……」

 父が奪われた石の情報が掴みやすいから―― などと言えるわけが無く、当然千聖は黙り込んだ。

 真紀子は別に千聖の答えが欲しかったわけでは無いようで、勝手に話を続けた。

「私はね、いろんな人に会いたくてこの仕事を選んだの。いろんな人に会っていろんな話しを聞いて、いろんな生き方をこの目で見て記事を書く。それって、自分を磨いていくのにとても有意義な事だと思うのよ。一つのものをとっても、人によって感じ方が違うんだから。例えばあなたの書いた記事」

 不思議そうにグラスから真紀子へ視線を戻した千聖に向かって、少し身を乗り出す。

「ほら、回収屋ティンクの事よ。一言で言えば彼女は窃盗犯よね?人の家に忍び込んで人の持ち物を盗んで行く。盗まれた人は当然怒ってるわ。けれど一方では、彼女に感謝している人もいる。法的に言えば当然裁かれる。でも人情的には彼女の味方をする人もいる。義賊だって言って。じゃあ彼女は悪なの?善なの?ある人にとっては悪でも、別のある人にとっては善。私には?―― 分からない。だから面白いのよ」

 真紀子は目を輝かせた。

 それからウイスキーを一口飲み、人差し指でグラスの口を拭った。

「今ね、私、会いたい人が居るの………誰?って訊かないの?」

 黙ったままの千聖に向かって問い掛け、微笑んでまた続ける。

「私、コメットに会いたいの。会って彼の話を聞いてみたい。何故盗むのか?ただ好きでやっているだけなのか?何か理由があるのか?だから、そのために色々調べて準備してるのよ」

 そのまま黙っているのもおかしな気がして、千聖が口を開く。

「準備って……何を?」

「彼は今、影のある石を捜しているでしょう?だから私も捜してみたの」

(影の石――)

 千聖はその言葉に目を細めて真紀子を見た。


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