DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~

「思ったより片付いてるのね。千聖は綺麗好きなんだ」

 その女性は玄関に入るなり周囲を見回した。

 背の高い、まるでモデルのような女性。

 スーツのタイトスカートからスラリと伸びた足が綺麗だ。

 リビングに居た未央は思わず立ち上がった。

「あら、この子が同棲相手?子供じゃないの」

「だから違うって言ってるだろう」

「じゃあ何なの?」

「居候です」

 咄嗟に未央が答えると、その女性は首を傾げた。

「居候?」

「預かってるんだ。両親が仕事で長期間不在だから」

 疑わしそうな女性に向かって、上着を脱ぎながら千聖が答えた。

「ふぅんそうなの。―― いいわ。そういう事にしておきましょう」

(何だろう?この人。凄く親しそうな口の利き方だけど。恋人?違うよね。だって私のこと同棲相手って……)

 未央は心の中で呟いて、その人を見つめた。

 それに気付いたのか気付かなかったのか、女性は未央に向かって微笑んだ。

「私、重蔵真紀子。千聖の同僚よ」

(ああ、会社の人か)

 何故かホッとして未央は胸を撫で下ろした。

 が――

「あなたお名前は?」

 真紀子と名乗った女性は未央に興味があるのか、そのまま話し掛けて来た。

「私は――」

「そんな事いいだろう?」

 千聖が強い口調で未央の言葉を遮る。

 それでも真紀子は、全く引く気配も見せない。

 未央は千聖がいつ怒鳴りだすか心配で、ドキドキしながら二人を交互に見ていた。

「良くないわよ。名前知らないと不便じゃないの。いいから教えて」

 もう一度訊かれて、また千聖を見る。

 千聖は腰に手を当てて溜め息をついた。


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