DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~

 急いで部屋に入りドアを閉める。

 胸がドキドキしていた。

『邪魔しないでね。大人の付き合い』

 そう囁いた真紀子の顔が浮かんでは消えた。

 未央は何だかここに居てはいけない気がして上着を掴むと、そのまま玄関へ向かって外へ飛び出した。

 マンション前の横断歩道を渡り、アーケード街へ向かう。

 そのとき――

「未央!」

 突然名前を呼ばれて足を止めた。

 声の主は――

「響………」

「何処行くんだよ。こんな時間に。コンビニか?」

 響の笑顔が、胸につかえていた何かを解かす。

 未央は突然その場にしゃがんで泣き出した。





…☆…



「何だよ、また千聖に何か言われたのか?」

 二十四時間営業のドーナツ屋の椅子に腰掛けると、響が口を開いた。

 温かいコーヒーとバナナマフィンを未央の前に置く。

塾の帰りでお腹が空いているという響は、アッという間に四個のドーナツを平らげた。

「食えよ、マフィン。ここの美味いんだぜ」

「ん………」

「元気でるから」

 顔を覗き込んだ響が微笑む。

 肯いて、未央はマフィンを一口食べた。

「美味しい」

「だろ?俺さ、ここのマフィン好きなんだけど、最高一度にいくつ食べたと思う?」

「―― 四個ぐらい?」

 未央は、さっきまで響の前の皿に乗っていたドーナツのことを思い出して答えた。

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