DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~
「あんたと居ると調子狂うよ」
やっとの事で笑いを止めた千聖が髪を掻き上げながら未央を見た。
目を合わせて微笑む。
優しい眼差し――
未央は胸がポウッと熱くなった。
千聖が庭の真ん中にある噴水に目を遣る。
未央も同じように噴水を見る。
立ち上がって傍に行くと、湿った涼しい風が頬を撫でた。
「女神像だ。目が青い。……もしかしてあれが石?」
「ああ。サファイアの中にマリア像のような影があるんだ」
「マドンナって聖母マリアのこと言うんだよね」
「ああ」
「青い目の女神様か……綺麗だね」
同意を求めるように、隣にいる千聖を振り仰ぐ。
千聖はまたいつもの、遠くを見るような目に戻っていた。
(千聖……石の事考えてるんだ)
「千聖」
―― 返事をしない。
もう一度話し掛ける。
「ねえ、千聖」
「なんだよ」
今度は少し煩そうに答えた。
「あの女神様、何履いてる?」
「えっ?何って――」
「自由の女神みたいにサンダル?それとも裸足?」
「裸足だけど……あんた目悪かったのか」
「目は悪くないよ。両方とも1.5だもの」
「じゃあ何で見えないんだよ?」
「だって噴水が邪魔で足下だけ見えないんだもん」