DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~
「私、米村瞳ともうします。父は米村総合病院の理事長をしております。千聖さんとは、先日の永池物産の永池博典様の御婚約パーティーで知りあいましたのよ」
「あら、そうなんですか」
「あなたは?」
今度は瞳が訊き返した。
「重蔵真紀子。千聖の同僚ですわ。まだアメリカから戻って来たばかりで近頃の日本の事は勝手が分からなくて、千聖には公私ともに良く面倒を見てもらってます」
「そうですか」
言葉の一部分にみょうに力を入れて答えた真紀子に、瞳は微笑んだ。
「私も千聖さんとは初めてお会いした時から意気投合して―― パーティーの夜は二人きりでとても楽しい時間を過ごさせていただきましたわ。ね、千聖さん」
千聖を挟んで二人の女がお互いに見つめ合う。
パチッと火花が散った気がした。
「それで、今日は?」
重い沈黙を破って、千聖が話を進める。
周囲の関係ない人間までが、ホッと溜め息をついた。
「そうでした」
気を取り直して、瞳は千聖の方を向いた。
チラリと真紀子を見る。
真紀子は肩を竦めると、「じゃあ、ごゆっくり」と告げて、自分の席に戻って行った。
「なんだか図々しい感じの方ね。千聖さんの事を呼び捨てにしたりして。私ああいう類の方は嫌いですわ」
瞳は小さく呟いてから、言葉を続けた。
「じつは、今日はパーティーのお誘いに伺いましたの」
「パーティーですか?」
「ええ、お仕事ではなく、個人的に私をエスコートしてくださらないかと」
個人的にエスコート―― つまり、体裁のいいデートの誘いだ。
「父のお友達の主催なさる船上パーティーですのよ」
「船上パーティーですか。それは素敵ですね」
瞳の父、米村聡吉の友人主催のパーティーと聞いて、千聖は少し興味を持った。
「どなたなんですか?その父上のお友達と仰るのは」
「古物商をしていらっしゃる神部さんという方ですの」