DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~


 途端に心臓が大きく波打った。

 神部――

 それは【プリンセス・スノー・ホワイト】を手に入れた時、米村の屋敷で米村聡吉と話していた男だ。

「いったい何のパーティーなんです?」

 平静を装って訊いて当然の事を訊く。

「神部のおじさまが、御得意様を招待なさるためのパーティーらしいですわ。パーティーだけでなく、取り引きもなさるとか。出席される若い方は皆さん婚約者の方と御一緒なさるし、このあいだお話ししたように、私にはそういう方は……。それで千聖さんのことを想い出して――」

 瞳は千聖をちらりと上目使いで見て、顔を赤らめた。

 千聖がフッと微笑む。

「でも、僕のような人間が伺っても良いんですか?僕には家柄も地位も無いんですよ?そんな人間と一緒では、かえってあなたが恥ずかしい思いをなさるのでは?」

「そんな事、関係ありません。人間の価値は家柄や地位ではありませんもの。千聖さんは素敵な方ですわ。ですからぜひ千聖さんにエスコートしていただきたいんです」

「でも……」

 まだ考えている様子の千聖に、瞳はもう一押しだと言わんばかりに言葉を続ける。

「それに、神部のおじさまは『恋人を連れて来たらいい物を見せてあげる』と仰ってましたの。幸せを呼ぶ石ですって。私、ぜひそれを千聖さんと一緒に見たくて」

「えっ?」

「【ワンダー・イーグル】という物だとか」

(【影】だ!―― 羽ばたく鳥の影を持つアクアマリン!)

 千聖は思わず拳を握り締めた。

 神部の持つ【影】、七つ目の石【ワンダー・イーグル】――

 真剣な表情の千聖を覗き込んで、瞳が微笑む。

「エスコートしてくださいます?」

「え―― ああ、そういうことでしたら喜んで」

 咄嗟に答えて微笑み返す。

「嬉しい!」

 途端に、瞳はまた千聖に抱き付いた。

「良かった……私、断られたらどうしようかと思っていましたのよ」

 甘えたような声で呟き、瞳が胸にもたれ掛かる。


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