DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~
「瞳さん、ちょっと――」
「えっ?なんですの?」
瞳は顔を上げると、千聖の戸惑った様子にようやく気付いて、慌てて千聖から離れた。
「ごめんなさい、私ったらこんな所で……。それに千聖さんはお仕事中でしたわね」
それから少し俯きながら髪を掻き上げた。
「日時はこちらの招待状に書いてあります。それからこれは――」
話しながら、鞄から取り出した招待状の隅に何やら小さく走り書きをする。
それを千聖に手渡し、「では、楽しみにしていますわ」と、編集室を後にした。
瞳のハイヒールの音が遠ざかると、さっそく溝口が近付いてきた。
「モテモテで困るって感じだな」
「冗談やめてくれ」
苦笑しながら、招待状に目をやる。
隅の方に数字が――
「おい、それ携帯の電話番号じゃないか?」
「みたいだな」
「『みたいだな』じゃないだろ」
溝口は腰に手を当てて、溜め息をついた。
「全くおまえと来たら――。分かってるのか?あんなお嬢様が、自分から携帯の電話番号を教えるという事の意味が」
「分かってるさ。またこのあいだみたいに――」
一旦言葉を止める。
「おいおい、『このあいだみたいに』だって?おやすくないな。いったい何があったんだ?」
千聖はフッと笑って片目を瞑って見せた。
「企業秘密だ。彼女には感謝しているけどね」
「なんだ?意味深だな」
笑った溝口に、肩を竦めて見せる。
「まあな」
「だけど……どうするんだ?」
「何が?」
「あっちはかなり機嫌が悪そうだぜ?」
溝口はチラリと部屋の奥の方を見た。