DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~


「デスクか?」

「いや―― あのボスキャラはもっと恐いかも。攻撃力高いし」

 千聖も溝口の視線の先を見る。

 腕を組んだ真紀子がこちらを睨んでいる。

「別に。放っておくさ」

「おいおい、おまえは良くても俺が困るんだよ」

「溝口君!」

 途端に真紀子が大声を上げた。

「いつまで喋ってるの?さっさと仕事始めて!私が頼んでおいた資料出してよ」

「ほらな?頼むからフォローしといてくれよ」

 溜め息をついて、溝口は真紀子の方へ歩きだす。

「嫌だね。触らぬ真紀子に祟り無しだ」

 千聖は呟いて、フッと笑った。



…☆…



「未央、今夜ちょっといいか?」

 夕食の後片付けをしていた未央の後ろで、不意に千聖が訊いた。

「えっ?」

「予定がなければでいいんだけど」

「なに?」

「身体が空いてたら、貸して欲しいんだ」

「えっ――」

 未央は途端に真っ赤になった。

「都合が悪いなら今夜は諦め―― ん?」

 黙り込んだ未央の態度に、千聖は不思議そうな顔をした。

 頬を染めて妙にもじもじしているように見える。

「どうかしたのか?顔が赤いけど」

「あ……あのさ、別に都合は悪くないんだけど、そういう誘われ方ってちょっと……何て答えていいか……。出来ればそんなふうに訊かれるより、その場の雰囲気で自然に―― って感じの方がいいっていうか……」

 おまけに視線が右から左、上から下とせわしなく動く。

 そのわりには、全く視線を合わせようとしない。


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