DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~

 午後九時――

「ね、千聖。向こうに見えるのってスターブリッジよね?」

「ああ、そうだ」

「ここは何処?」

「中野大橋だ」

「ふぅん――」

 潮の香りがする。

 橋の上は駐車禁止であるにもかかわらず、何台もの車がそれぞれ適当な間隔を開けて停車していた。

 辺りがハザードランプのオレンジ色の光で、明るくなったり暗くなったりしている。

 未央は風に揺れる髪を掻き上げながら、欄干に肘を付いて暗い沖を眺めている千聖をチラリと見た。

 顔を覗くようにして訊く。

「海に掛かってる橋なんて凄いね。どうやって作ったんだろう」

「さあ……」

「知らないんだ」

「ああ………」

「さっき通ったのはミラクルワールドだよね?」

「ああ……」

「あっちのはツインタワー?」

「そうだ……」

「ねぇ、千聖。もし私がここから落っこちたら、助けてくれる?」

「ああ……」

「そっか。じゃあ安心だね」

 未央はニッと笑った。

 そして欄干に手を乗せると、突然ジャンプして足を掛けた。

「ば――馬鹿!何やってるんだ !!」

「きゃっ――!」

 必死になって抱き留めた千聖と、絡むように歩道に倒れる。

 途端に未央は声を上げた。

「痛いなぁ!膝、擦り剥いちゃったじゃない」

「馬鹿!『擦り剥いちゃった』じゃないだろう!何のつもりなんだ !?」

「だって――!」

「だってもクソもあるか!落ちたらどうす――」

「だって千聖、自分で誘ったくせに他のこと考えてるんだもん!」

 千聖は遮ったその声に、後の言葉を飲み込んだ。

 確かに未央の言うとおりだったからだ。

「せっかく二人きりなのに!夜景が綺麗でロマンチックなのに!なのに……」

「ごめん―― 俺が悪かった。そうだよな、せっかくの夜景なのにな」

 素直に謝った千聖に、未央は微笑んだ。


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