DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~
「いいよ。分かってくれれば」
一度立ち上がって服の汚れをポンポンと叩き落とし、欄干に背を向けて歩道に腰を下ろす。
同じように隣に座った千聖の横顔を見つめ、それから少し間を置いて未央はまた口を開いた。
「―― 私こそゴメン。驚かせて」
「えっ?」
「本当は分かってる。千聖、石の事考えてたんでしょ?」
「未央……」
「今度は船の上なんでしょ?だから、この橋を利用できないか考えていたんでしょ?」
「よく分かるな」
苦笑しながら訊いた千聖に、少し恥ずかしそうに未央が微笑む。
「分かるよ。だって好きな人のことだもん」
未央は欄干に背中をあずけて、空を見上げた。
千聖がポケットから煙草を取り出し、火を付ける。
スウッと吸い込むと、煙草の先が一段と明るくなった。
「【ワンダー・イーグル】っていう石なんだ。アクアマリン……空のような水色の石で、その中に翼を広げた鳥の姿がある」
「それも千聖のお父さんの石?」
「ああ。七つあるうちの一つ―― 最後の石だ。それを手に入れたら全部が揃う。謎が解ける」
「謎?千聖の目的って石を取り返すことだけじゃなかったの?」
初めて聞いた話に、未央は首を傾げた。
頷いた千聖が、細長い指で煙草の灰を落としながら静かに続ける。
「七つの石を手に入れれば、死ぬまで幸福に暮らせる」
「えっ?」
「親父の机の引き出しにしまい込まれていたメモに、そう書いてあったんだ」
ポケットの手帳から千聖は一枚のメモを取り出して未央に見せた。
『幸福をもたらすという影を持つ【七つの石】をとうとう手に入れた。私はこれを愛する千聖のために大切に保管しておこう。いつの日にか、この石に隠された秘密を千聖が解く日まで。それまでは何としてもこの石を護らなくては』
角ばった文字が几帳面に並んでいる。
未央は、いつか響と一緒に図書館で調べたあの新聞記事を思い出していた。