DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~

 夜の橋の上で千聖の乗った船を待つ。

 周囲には何台もの車とカップル――

「うぅぅん……一人で行くにはちょっと問題よね」

 未央は頬杖をついて溜め息をついた。

 学校の教室。

 今は休み時間だ。

「いったいどうしたの?溜め息なんかついちゃって」

「きゃっ!」

 突然肩を叩かれて、未央は思わず飛び上がった。

「あぁビックリした」

「なによ、こっちもビックリしたわよ」

「ゴメン、久乃。ちょっと考え事してて」

 肩を竦めた未央に向かって、久乃がニッと口角を上げる。

「考え事?いったい何を考えてたの?響とケンカでもした?」

「そんなんじゃないわよ」

「じゃあ何?」

「ん……ちょっとね」

 久乃は言葉を濁した未央の顔を覗き込んだ。

 そのまま前の席の椅子に後ろ向きに座る。

「何よ、『ちょっと、ちょっと』って。ハッキリ言いなさいよ。この久乃さんが一緒に考えれば、良い考えも浮かぶってもんよ」

「そうか、久乃がいれば百人力か」

 すぐに久乃が言い返す。

「何かそれ変じゃない?」

「え?何処が?」

「考えるんだから、【百人力】じゃなくて【三人寄れば文殊の知恵】でしょ?」

「でも私と久乃で二人だよ?」

 未央の言葉に、久乃が口元を引き攣らせて暫し黙る。

「……ま、いいじゃないの堅いこと言わなくて」

 それから久乃は小さく肩を竦めた。

「だからいったい何なの?溜め息の原因は」

(困ったなぁ……何か言わなくちゃ後に引きそうにないわね)

 未央は少し考えてから口を開いた。

「あのね、わけあって夜遅くに出掛けなくちゃならないかも知れないの。で、もしもそうなったら一人じゃちょっとなぁ―― と思って」

 久乃は胸の前で腕を組んで、大きく肯いた。


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