DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~
「そうよね。未央は可愛いからね。分かる分かる……最近よく出るコメットとかいう怪盗にでも盗まれたら大変だし――」
「あのね、コメットが盗むのは宝石なの。人間なんか盗まないわ」
(ハートや唇は盗むかも知れないけど……)
千聖の顔が頭に浮かんで思わず赤くなる。
(……馬鹿、私ったら何考えてるのよ)
未央は久乃に見られないように急いで俯き、気を取り直してから言葉を続けた。
「とにかく、そういう理由なの」
「そんなの簡単よ。夜に外を出歩くなら、犬を連れて行くのがいいわよ。あ、でもちっちゃいのは駄目。でっかい奴ね」
久乃の言葉にリトルを思い出した。
でも、リトルは居ないのだ。
「じゃあ犬が居なかったら?」
「そういうときはボディーガードを雇うのね」
「そんなの何処に頼むのよ。駅の伝言板に【XYZ】って書いておくと連絡が来るとか?」
途端に久乃は呆れ顔で未央を見た。
「何言ってんの。未央にはただ働きしてくれるボディーガードがいるでしょ?」
「えっ?」
未央は久乃の言いたい事がまったく分からない様子だ。
「ホント鈍いわね。響よ、響」
「あ……そうか」
(響なら免許も持ってるし、あそこまで行くのも楽よね。でも仕事に響を連れて行くなんて――)
頭の中でそう考えた瞬間――
久乃の口から思わぬ言葉が飛び出した。
「―― やっぱりマズイかな」
「えっ……」
まるで心の中を覗いたようなそれに、未央は少しドキドキしながら聞き返した。
「何がマズイって?」
「だって響は未央のこと好きだから、夜遅くになんて二人っきりでいたら――」
「いたら――?」
「いたら………」
真顔のままたっぷりの間を置いてから久乃が勢い良く立ち上がり、動物が獲物に襲い掛かる時のように両手を未央の上へ翳す。