DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~

「突然狼になっちゃったりして!」

「誰が狼だって !?」

 ふいに聞えた大声に振り向くと、途端に久乃はのけ反った。

 いつの間にか響が後ろに立っていたのだ。

「ゲッ!響。聞いてるなら聞いてるって言ってよね、人が悪いなぁ」

「ばぁか!おめぇの大声じゃ聞きたく無くたって聞こえちまうよ!ったく――」

 軽く眉間に皺を寄せてから、響は未央の隣に椅子を持って来て座った。

「で、何の話しだよ」

「狼になる奴の話?」

 からかうように久乃が響を覗き込む。

「てめぇ―― 久乃!」

 響が立ち上がると、途端に「あっ!私、用があるんだった。じゃあね」と、久乃はさっさと逃げ出した。

「ふう……やっと静かになったな」

 響は大きく溜め息をついて座りなおした。

 ポケットへ手を突っ込んだまま、改めて未央に話し掛ける。

「何の話しだ?」

「ん―― 例えばの話しをしてたの」

「どんな?」

「例えば、私が夜一人で出掛けるとしたら――」

「何だ、また千聖と喧嘩したのか?」

「えっ?―― 違うよ、喧嘩なんかしないよ」

 心なしか嬉しそうに答えた響に、未央は慌てて手を横に振って微笑んだ。

「チッ!期待してたのに……」

「えっ?何か言った?」

「別に何でもねえ」

 いくら何でも今の千聖とのことは響には話せない。

(響が心配してくれているのは分かるけど……千聖に好きだって言われた。抱き締められた。キスされた。なんて言えないもん)

 チラリと響の横顔を見る。

 響は窓の方へ視線を投げたまま、そこに居た。

(ゴメンね響……)

 未央は心の中で小さく呟いた。


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