DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~
MISSION 23 ― 神部の思惑 ―
真紅のポルシェが、臨時に設置されたパーキングに滑り込む。
一度も切り返す事無く定められた枠の中にピタリと収まると、運転席から降りた若い男が助手席のドアを開けた。
白いドレスを身に纏った瞳が、差し出された男の手を掴む。
そしてニッコリ微笑んだ。
「千聖さん、運転お上手ですのね」
「今日は安全運転に心掛けました。瞳さんに怪我でもさせたら大変ですからね」
黒いスーツにブルーのネクタイを締めた千聖の腕に、瞳が寄り添う。
クレイドル号の乗船口に向かうお似合いの二人に、否が応でも周囲の視線が集まる。
「あら、米村さんのお嬢さんですわよね?御一緒の方はどなたかしら。とても素敵な方」
「瞳さんの御婚約者かしら……羨ましいわ」
あちこちから囁く声が聞こえて、瞳は嬉しそうに顔を上げた。
きちっと正装した千聖は、いつにも増して素敵に見えた。
「千聖さん」
「何ですか?」
「……何でもありません」
小さく呟いて目を反らせた瞳に、千聖は微笑んだ。
「あら?」
その時、ふと船の方に目をやった瞳が声を上げた。
「おじさま!」
千聖も瞳の視線の先を見る。
三十代前半ぐらいだろうか?
少しパーマのかかった髪の、体格のいい男が立っていた。
「神部のおじさま!」
(神部……あの男が――)
心の中で呟き、千聖は拳を握り締めた。
180センチ近くはあるであろう身長。
太ってはいないのにがっしりとした胸回りは、スポーツでもしているのだろうか?
肩まで伸びた髪は中央よりやや左から分けられていて、見た目だけで職業を当てろと言われたら殆どの者が芸術関係の仕事を答えそうな感じだ。