DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~
出港の合図と共にクレイドル号は暗い海へと滑り出す。
乗客は百人―― いや、もう少し居るだろうか。
会場の中は大勢の人で賑わっている。
政財界や芸能界などの知っている顔もちらほらと見え、神部の付き合いの広さを物語っていた。
(影山、藪澤、米村……それから神部。車椅子の永池秋江も居る。もし生きていれば、あの赤峰もこの中に居たのだろうか?きっと神部が接触する人物の中に【アイズ・オブ・マドンナ】の持ち主だったもう一人の人物も居るはずだ。何処だ?何処に居る?いったいどんな奴なんだ?男か?女か?)
瞳と当たり障りのない話しをしながら、チラチラと神部の姿を目で追う。
パーティーが始まって約三十分。
神部は相変わらずにこやかな笑顔を見せながら、次々と客の肩を叩いていた。
(男もいる。女もいる。若い者も、年寄りも――。これじゃあ……誰が七人目なのか分からない――)
千聖が思わず溜め息をついたとき、瞳が腕を掴んだ。
「千聖さん、私もうお腹がいっぱいですわ」
立食形式のパーティーというものは、何故かあまり食べないうちにお腹がいっぱいになるものだ。
「そうですね」
肯いた千聖に瞳が微笑む。
「神部のおじさまに石を見せてもらえるまで、まだ時間がありますわね」
話し掛けながら、腕を回してくる。
おそらくこの会場から千聖を連れ出すつもりなのだろう。
千聖は瞳の考えている事が手に取るように分かって、思わず苦笑いした。
「そうですね。何をして過ごしましょうか?」
「出来ればデッキでお話を――」
「では、瞳さんのお望み通りに」
(部屋へ誘われなかっただけでもましか……。それにデッキの方が都合がいい)
そう思いながらグラスを置くと、瞳は嬉しそうに千聖の腕にもたれ掛かった。