DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~


 向坂裕一は、佐々木隆利が結婚した恵子の連れ子だった。

 やがて、大学在学中に知りあった向坂香里と結婚。

 向坂姓を名のる事にしたのは、香里が一人娘だったからという理由だけではなく、養父である隆利と距離を置きたかったからかも知れない。

 可愛がってもらったとはいえ、心のどこかに自分から母を取った男だという思いがあったのだ。

「こんなに似ているなんて、本当に不思議だな。まるで血の繋がった息子のようだ」

 神部は話しながら、千聖をまじまじと見た。

 だが、幼い頃からそう言われ続けていた千聖にとっては、そんな事はどうでも良いことだった。

「さて――」

 少しして、神部はグラスを置くと、アタッシュケースの中からほぼ十センチ角の箱を取り出した。

「お待たせしたね。そろそろお待ちかねの物をお見せしようか。【影】を持つ石【ワンダー・イーグル】を――」

 箱が開くと、途端に瞳は声を上げた。

「まあ……何て素敵なの」

 収まっていたのは、ブリリアントカットを施された直径3センチほどのアクアマリン。

 その中には、確かに翼を広げた鳥の姿があった。

(この石を手に入れれば【影】が全て揃う――)

 膝の上で拳を握り締めた千聖に、神部が声を掛けてきた。

「どうだい?向坂君。手に取ってみては」

「お言葉に甘えて」

 千聖は微笑んでポケットからハンカチを取り出し、石を摘み上げた。

 明かりに翳してみる。

 何処までも続く青い空を、たった一人で彷徨うような淋しげな姿に思わず目を細めた。

 ふと神部の視線を感じて瞳に話しかける。

「ほら、瞳さん。とても綺麗ですよ。まるで太陽の光を浴びてキラキラ輝く海面に映る鳥の影のようだ」

「本当に。とても綺麗ですわ」

 瞳は千聖の肩にもたれるようにして、石を覗いた。

「君はなかなかロマンチストだね」

 千聖の言葉を聞いていた神部がフッと笑った。


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