DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~
「いいよ。気にするな。おまえが千聖のこと好きなの知ってて、それでも近くに居ようって決めたのは俺自身なんだから。もう構わないでって言われないだけでも、いろんな事相談してくれるだけでもラッキーだと思ってるんだから。傍に居られるだけで嬉しいんだから」
(嘘つき……俺は大嘘つきだ!それに―― 大馬鹿だ)
ガタンとドアを開けて響は外に出た。
欄干にもたれて暗い沖へ目をやる。
遅れて出て来た未央が、少しあいだを開けて隣に立った。
「響、ゴメンね……」
「いいって……もう言うな」
窓に灯りのともった船が近付いてくる。
二人とも黙ったままそれをじっと見つめた。
ゆっくり時間をかけて、その船が橋に差し掛かる。
その瞬間、大きな破裂音とともに辺りが明るくなった。
「花火だ。いったい誰が……」
響は一瞬空に開いた光の花をじっと見つめた。
二度目の音を聞いてから、ふと未央に目をやる。
未央は――
花火ではなく、欄干から乗り出すようにして下を通る船を見ていた。
暗いデッキに立った二つの影。
その影が静かに近付き――
「未央!」
響の声にハッとする。
「見ろよ落下傘だ」
「えっ?何処?」
「ほらあそこ。こっちに向かって来る」
響の指さした方を見る。
港の明かりをバックにフワフワと降りてくるそれには、よく目立つ黄色い傘の下に少し大きめの重りがついている。
海からの風に煽られて、落下傘はまさに目の前を通過しようとしていた。
(落下傘……重り――)
「あ――!」
『この橋の上で、下を通る船から俺が渡す【ワンダー・イーグル】を回収してもらいたい』
(石―― そうだ!【ワンダー・イーグル】!)
千聖の言葉を追い出し、急いで欄干から身を乗り出して手を伸ばす。
しかしそれは思ったより落下速度が速く、未央の手の先をアッという間に通り抜けた。
(ああっ!駄目だ!)
思わず声を上げそうになったその時――