DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~
静かにドアの閉まる音がした。
続いて洗面所で水の音がする。
それから少しして、暗いリビングに人影が入ってきた。
今は午前一時。
船が中野大橋の下を通ったのが九時過ぎ――
もう四時間も前だ。
未央は十時にここへ戻ってから、ずっとリビングのソファーで膝を抱えて千聖の帰りを待っていた。
リビングに明かりがともる。
光に浮かび上がった未央の姿に、千聖は一瞬動きを止めた。
「未央……まだ起きてたのか。明かりも付けないで何してるんだ?」
直ぐに目を逸らすと、ネクタイを外して上着と一緒にソファーの上に置いた。
「―― 遅かったね」
「悪いな、待たせて」
「これ……」
未央はずっと握り締めていた【ワンダー・イーグル】を隣に座った千聖に渡した。
「ありがとう。助かったよ」
微笑みながら片方の手を伸ばし、未央の腕を掴んで引き寄せる。
そのまま肩を抱いて唇を近付けようとした瞬間、未央は顔を背けた。
「嫌……」
「――?どうした?何すねてるんだ?」
「すねてなんかいない」
「だったら――」
もう一度顔を近付ける。
未央がまた横を向いた。
千聖は大きく溜め息をついて声を荒げた。
「なんだよ !? 何なんだよ!」
苛立って席を立ち、窓辺に寄る。
それからガラスに映る未央の姿に目をやった。
「何が気に入らないんだ?何か言いたい事があるんなら、ハッキリ言えよ」
「じゃあ言うよ!ハッキリ言うからね!」
声をあげ、未央は千聖の後ろに少し離れて立った。
「千聖は――」
ゴクリと唾を飲む。
「千聖は不潔よ!」
「なんだよそれ」
千聖は振り向いて未央を見た。