DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~

 静かにドアの閉まる音がした。

 続いて洗面所で水の音がする。

 それから少しして、暗いリビングに人影が入ってきた。

 今は午前一時。

 船が中野大橋の下を通ったのが九時過ぎ――

 もう四時間も前だ。

 未央は十時にここへ戻ってから、ずっとリビングのソファーで膝を抱えて千聖の帰りを待っていた。

 リビングに明かりがともる。

 光に浮かび上がった未央の姿に、千聖は一瞬動きを止めた。

「未央……まだ起きてたのか。明かりも付けないで何してるんだ?」

 直ぐに目を逸らすと、ネクタイを外して上着と一緒にソファーの上に置いた。

「―― 遅かったね」

「悪いな、待たせて」

「これ……」

 未央はずっと握り締めていた【ワンダー・イーグル】を隣に座った千聖に渡した。

「ありがとう。助かったよ」

 微笑みながら片方の手を伸ばし、未央の腕を掴んで引き寄せる。

 そのまま肩を抱いて唇を近付けようとした瞬間、未央は顔を背けた。

「嫌……」

「――?どうした?何すねてるんだ?」

「すねてなんかいない」

「だったら――」

 もう一度顔を近付ける。

 未央がまた横を向いた。

 千聖は大きく溜め息をついて声を荒げた。

「なんだよ !? 何なんだよ!」

 苛立って席を立ち、窓辺に寄る。

 それからガラスに映る未央の姿に目をやった。

「何が気に入らないんだ?何か言いたい事があるんなら、ハッキリ言えよ」

「じゃあ言うよ!ハッキリ言うからね!」

 声をあげ、未央は千聖の後ろに少し離れて立った。

「千聖は――」

 ゴクリと唾を飲む。

「千聖は不潔よ!」

「なんだよそれ」

 千聖は振り向いて未央を見た。


< 245 / 343 >

この作品をシェア

pagetop