DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~


 眉間に皺を寄せ黙り込む。

「ねえ、アナグラムって何?」

 石を見つめたままの千聖に未央が訊いた。

 初めて聞くその言葉は、頭の良い人のみが知っている事のように思えて、未央は自分も知りたくなったのだ。

「え?―― ああ、文字の順番を入れ替えて別の言葉を作る遊びだよ。俺の名前もアナグラムで出来ているんだ」

「千聖の名前?」

 それに今まで話さなかった自分の事を、千聖が話してくれるのが嬉しかった。

「ああ」

 千聖は頷いて煙草に火をつけた。

「俺は小さい頃お祖父ちゃん子だったんだ。母さんに連れられて、しょっちゅうじいちゃんの家に遊びに行ってた。俺の名前はそのじいちゃんが付けたんだよ」

「千聖のお祖父ちゃんてどんな人だったの?」

 千聖は背凭れに寄り掛かると、少し顔を上げて天井へ目をやった。

「とにかくいろんな事を知ってる人でさ、なぞなぞをしたり朝顔の花で色水を作って混ぜてみたり、紙飛行機を飛ばしたり暗号を作って秘密の手紙をやり取りしたり。だから俺の名前を付ける時も、アナグラムで付けたのさ」

「ね、どうやってやるの?アナグラム。教えて」

 なつかしそうに話す千聖に、未央は身を乗り出した。

 千聖はペンを手にすると、説明を始めた。

「じいちゃんの名前は【佐々木隆利】っていうんだ。ローマ字で書くと【SASAKITAKATOSI】。それを並べ替えて【SAKISAKATISATO】にしたわけさ」

「これがここで、これがこっち……あ、ホントだ!」

 未央はアルファベットを暫く見つめてから声を上げた。

「すごおい!千聖のお祖父ちゃんて天才だね」

「そうだな」

 今は居ない祖父が未央の口から出た絶賛の言葉を聞いたらどんな顔をするだろうと思えて、千聖は笑った。


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