DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~

 カタンとドアの閉まる音がして、未央は目を覚ました。

 時計を見る―― 一時だ。

 部屋を出ると、洗面所の明かりがついていた。

 何気なく覗いてみる。

 千聖だった。

 手を洗っていた。

 いや―― 洗っているというよりも心ここに在らずといった感じで、無意識に手を動かしているというふうだった。

「千聖?―― 何してるの?」

 こんな時間に未央が起きているなどとは、思ってもみなかったのだろう。

 千聖はビクッとして手を止めた。

「なんだあんたか。―― 見りゃ分かるだろう?手を洗ってるだけだ」

 洗面台の縁に両手を付き、千聖は視線を落としたまま答えた。

 今朝までの千聖と、態度が全然違う。

「なんだよあっちへ行けよ」

「でも――」

 チラッと見えた青いシャツの袖口に、血のような染みがついている。

「シャツに血が……怪我でも――」

 次の瞬間、未央は縮み上がった。

「あっちへ行けと言っているんだ !!」

 千聖が声を荒げ、それと同時に目の前の鏡を拳で殴り付けたのだ。

 割れた鏡が洗面台に落ちて砕け散る。

 拳からは血がポタポタと滴り落ちた。

「千聖!手を――」

「煩い!あっちへ行け!さっさと行って寝ろよ!俺に構うな !! 俺に関わるなっ !!」

 今まで聞いた事もないほど激しく怒鳴りつける千聖に、未央はどうしていいか分からずその場に立ち尽くした。

 涙が溢れて頬を伝った。

 クルリと背中を向けて、リビングへ向かう。

「未央!」

 途端に、千聖は弾かれたようにその後を追った。


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