DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~
MISSION 27 ― 忍び寄る影 ―
主を失ったその屋敷は、闇の中にあった。
あれほど手入れの行き届いていた広い庭も、今はただの荒れ地と化している。
しっかりとした作りの門に貼られた「売り家」と書かれた紙は風に煽られ、何処かもの悲しい感じがした。
赤峰邸――
千聖は辺りを見回すと、ヒラリとその門を飛び越えゆっくり屋敷へと向かった。
前にここへ来た時と同じようにスルスルと壁を登り、窓をこじ開け中に入る。
そしてまっすぐ目的の部屋へと足を運んだ。
ほとんどの物が運び出された中、それはまだそこにあった。
トラップが解除されない限り持ち出せないため、屋敷の持ち主が何度変わっても常にこの場所に留まっていたのだ。
そう――
もしかしたらこれこそが、この屋敷の主と言えるかもしれない。
「人魚か……やはりこれだな」
額のすぐ下。
以前は家具の陰になっていた所に、一ヶ所だけ他のレンガとは明らかに違う物があった。
他の物の幅より倍の長さを持つそれを、両手の親指で強く押す。
途端にそれがするすると壁に減り込む。
間も無く、レンガの重みから解放された上皿天秤のような物が現れた。
その数が七つある事を確認し、ポケットから布の袋を取り出す。
窓の向こうに見えていた月がふと雲に隠れた瞬間、千聖は手を止めた。
絵に向かったままで口を開く。
「解けたのか……。アナグラム」
「ええ……」
「言ってみろ」
答えを求められ、廊下へ続くドアの前に立っていた小さな影は答えた。