DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~

 もしも――

 もしも、トラップが解除されていなかったら……

「千聖……」

「そんな顔するなよ。大丈夫だから。俺に任せろ」

『とにかく俺に任せておけばいいんだ』

 初めて出会った夜の千聖の言葉が、頭の中に浮かぶ。

(あの時も大丈夫だった。千聖に任せておけば、絶対大丈夫に決まってる)

「分かった」

 未央は肯き、ドアを開け放してそのすぐ外に立った。

「じゃあ外すからな」

 期待と不安が入り混じり、ドキドキする胸を押さえてまた肯く。

 千聖はスゥッと息を吸って額に手を掛けた。

 少し引き上げ、一旦手を止める。

 それからゆっくり持ち上げそっと床に降ろし、ホットと息をついた。

 数秒前まで絵があった壁を見ると、絵を掛ける金具の下に少し空間があって、金具が上下するようになっていた。

 金具が下がっている時は、ストッパーが作動している状態。

 また、石を正しい順に天秤に置き、七つの天秤が重さに応じた高さで停止した時もストッパーが作動する。

 つまり、ストッパーは二つあるという事だ。

 石を置いていないか、或は間違った順番で並べた状態で金具が上がるとトラップが作動するようになっているのだ。

 絵の後ろの壁には四角い空間があり、当初はそこへ宝箱を隠していたのだろうと思われた。

「上手く考えたもんだ」

 千聖は、両手で頭を抱えて廊下の床にしゃがみ込んでいる未央を振り向くと、フッと笑った。

「もういいぞ」

「ああ、良かった。何も起こらなくて」

 声を聞いた未央が、急いで傍に駆け寄り千聖の手から絵を受け取る。

「これがパパの絵―― 私とママの絵なのね」

「いい絵だな」

「パパ、ママ……。これからはずっと一緒だね」

 未央は、絵をしっかりと抱き締めた。


…☆…



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