DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~

「ま、いいわ。それじゃあ私も一緒に行くからよろしく」

「えっ……」

「なに?いけない?」

「いや、別に――」

(それじゃあ意味がないぜ)

 千聖は上目遣いで真紀子を見ながら、コーヒーを飲み干した。

 紙コップを握り潰して、くずかごに放り込む。

「さ、そうと決まったらさっさと仕事片付けなくちゃね」

 満足そうに微笑んで自分の席に戻る真紀子を、二人は黙って見送った。

「向坂」

 数秒後、溝口が椅子ごとゴロゴロと移動してきて肩を叩いた。

「ん?」

「結局行く事になったな」

「ああ、仕方ない。少しだけ付き合うさ」

「今日はおまえの奢りだからな」

 パソコンのモニターを見たまま答える。

「何故?」

「誤魔化すなよ、分かってるぜ。誘われたんだろう?『朝まで一緒にいましょう』って」

 軽快にキーボードを叩いていた千聖の指が、一瞬止まる。

「で、断りたかったんだろう?」

「……まあな」

「断り方が分からなくて、困ってたんだろう?おまえ、大学時代から来る物は拒まずで、断った事なんて無かったからな。だったら俺は恩人だよな?」

「………分かったよ」

 千聖は肩を竦めて煙草に火をつけた。




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