DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~

「さあ行きましょう」

 時計の針が八時半を指すと、真紀子はさっさと準備をすませ二人の傍にやってきた。

 グズグズしていても仕方が無いと諦めて、真紀子に腕を引かれるまま街へ出る。

 真紀子が見付けたという店は、千聖のマンションがある【藤塚】から二駅先の【東笹原】にあった。

「どう?良い店でしょ?」

「そうだな」

 どちらかと言えば仲間で来るというよりカップルで、という感じの店に苦笑いする。

 それでも学生時代の事や、仕事の事をああでも無いこうでも無いと話し――

 一時間ほど経った時だった。

 テーブルに乗せてあった携帯電話が、ガタガタと音を立てた。

「向坂のじゃないか?」

「ああ」

 事件が起きたから直ぐに向かえなどという無粋な電話では無い事を祈りながら、携帯を耳に当てる。

 直ぐに聞き慣れた元気な声が聞えた。

『千聖?私、未央』

「ああ」

 二人に背を向けるように、少し斜めに座り直す。

『ごめんね、電話なんかして。仕事だった?』

「いや」

『今何処?会社?』

「東笹原の駅の近くで、会社のヤツと飲んでるんだ。どうかしたのか?」

『あのね、ちょっと相談があって。えっとね……あの……」

「いいから言ってみろよ」

 他にも人が居ると聞いたためか、話しにくそうな未央を促す。

『私の仕事のことなんだけど―― 標的のある場所が、私じゃちょっと出入りしにくい所で』

「え?」

『あのね、男の人しか出入りしないお店なの。えっと、キャバレーっていう?それで、標的自体はそこの事務所にあるんだけど、千聖……お店の方を、下見してくれないかなぁとか思って』

 千聖は、一段と小声で受話器に囁いた。




< 271 / 343 >

この作品をシェア

pagetop