DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~
「パスポート絡みか?」
『うん―― え?どうして分かるの?』
「おいおい、俺の仕事はなんだっけ?」
『怪盗』
ある意味正解なのだから笑うわけにもいかず、千聖はヒクッと口角を歪めた。
『――?あ、新聞記者だ』
言い直された答えに、気を取り直して話を続ける。
「だから聞いたことあるんだよ。そういう話し」
『そうか……』
千聖には未央の僅かな話から、依頼内容までもが予測できた。
それほどまでに、悪い噂のある店なのだ。
「ところで、いいのか?俺がそういう店に行っても」
『えっ?あ――』
受話器の向こうで未央が一瞬黙る。
それから、何やらブツブツ呟く声が聞えてきた。
『だって……仕方ないもん。ホントは嫌だけど……その仕事、受けちゃったんだもん。だから我慢するもん』
未央が本音を吐くときの「―― もん」という口癖に、思わずフッと笑う。
同時に千聖の中の悪戯心が顔を覗かせる。
「OK、いいよ。美味しい仕事だし、公認だからたっぷり楽しんでくるよ」
『千聖!』
途端に今度は大きな声が耳元に響いた。
「なに?」
『嫌だよ』
「なにが?」
『あの―― その――』
「ん?」
『だから、お店の女の人に誘われても変なことしちゃ駄目だからね!』
「『変なこと』って?」
『―― 変なことっていうのは、変なことよ。と、とにかく駄目だからね!』
「クックックッ……」
堪えきれなくなって、千聖は笑い出した。
『千聖?』
「大丈夫、分かってるよ。分かってるしちゃんと守ってるよ。約束しただろう?」
『うん……でも、でもね、千聖は大人だし、男の人だし、それにカッコイイからもてるし』
不安げな声を聞きながら、千聖はグラスの中に残っていたウィスキーを飲み干した。