DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~

「パスポート絡みか?」

『うん―― え?どうして分かるの?』

「おいおい、俺の仕事はなんだっけ?」

『怪盗』

 ある意味正解なのだから笑うわけにもいかず、千聖はヒクッと口角を歪めた。

『――?あ、新聞記者だ』

 言い直された答えに、気を取り直して話を続ける。

「だから聞いたことあるんだよ。そういう話し」

『そうか……』

 千聖には未央の僅かな話から、依頼内容までもが予測できた。

 それほどまでに、悪い噂のある店なのだ。

「ところで、いいのか?俺がそういう店に行っても」

『えっ?あ――』

 受話器の向こうで未央が一瞬黙る。

 それから、何やらブツブツ呟く声が聞えてきた。

『だって……仕方ないもん。ホントは嫌だけど……その仕事、受けちゃったんだもん。だから我慢するもん』

 未央が本音を吐くときの「―― もん」という口癖に、思わずフッと笑う。

 同時に千聖の中の悪戯心が顔を覗かせる。

「OK、いいよ。美味しい仕事だし、公認だからたっぷり楽しんでくるよ」

『千聖!』

 途端に今度は大きな声が耳元に響いた。

「なに?」

『嫌だよ』

「なにが?」

『あの―― その――』

「ん?」

『だから、お店の女の人に誘われても変なことしちゃ駄目だからね!』

「『変なこと』って?」

『―― 変なことっていうのは、変なことよ。と、とにかく駄目だからね!』

「クックックッ……」

 堪えきれなくなって、千聖は笑い出した。

『千聖?』

「大丈夫、分かってるよ。分かってるしちゃんと守ってるよ。約束しただろう?」

『うん……でも、でもね、千聖は大人だし、男の人だし、それにカッコイイからもてるし』

 不安げな声を聞きながら、千聖はグラスの中に残っていたウィスキーを飲み干した。



< 272 / 343 >

この作品をシェア

pagetop