DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~

「ま、いい。今から行くよ」

『ホント?ありがとう』

「じゃあ待ち合わせしよう」

『嬉しい!なんか、デートみたいだよね』

 未央の言葉に思わず微笑む。

「そうだな。そういえば一度も行ってないもんな。それじゃあ……」

『え?』

「今度誘うよ。ちゃんと計画立てて。世界一のイベントに」

『うん。楽しみに待ってる』

「じゃあ」

 電話を切って、すぐに立ち上がる。

「悪い、用事が出来た。先に帰るから、俺の分ここに置いておくよ」

 ポケットから出した五千円札を小さなバインダーに挟まった伝票と一緒に置くと、それまで黙っていた二人が口を開いた。

「なんだ?デートか?」

「なあに?電話中に笑ったりして。いつかのお嬢様?」

 二人に訊かれて視線をそらす。

「違うよ」

「じゃあ未央さんね」

「……とにかく、先に帰るよ。悪いな溝口」

 真紀子の追撃に遭う前にと、急いで席を離れる。

「待てよ、俺も帰るから。じゃあ真紀子さん」

 置いて行くなと言わんばかりに溝口までもが立ち上がると、真紀子は諦めたように片手を上げた。

「……分かったわ。それじゃあ明日ね」

「ああ、明日」

 答えて振り向いた千聖が出口へ向かう。

 だが、数歩進んだところでふと動きを止めた。

 誰かに見られているような気配に、辺りを見回してみる。

 しかし、客はおろか店員の中にもそれと思われる者は居なかった。

「なに?忘れ物?」

「何でもない」

 真紀子に軽く手を上げると、千聖は先に出口に向かった溝口を追って店を出て行った。

 その後ろ姿が「これで解放された」と言っているように見えて、苦笑いした時――

 誰かに肩を叩かれ、真紀子は振り向いた。




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