DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~
「重蔵……君?重蔵真紀子君じゃないかな?」
「神部さん!お久しぶりです」
「久しぶりだね。元気にしてたかい?」
神部は、弾かれたように立ち上がった真紀子に手を差し出した。
「ええ、おかげさまで。それに、その節はお世話になりました」
「いやいや、大した事じゃないよ。こういう商売をしていると、何処にどんな物があるなどという情報は黙っていても入ってくるものだから。でもあまり役に立たなかったようだね」
真紀子は背筋をピンと伸ばした。
そう――
【アイズ・オブ・マドンナ】が中央美術館にあるという情報をくれたのは、神部なのだ。
それを聞いた時、真紀子はこれでコメットをキャッチ出来ると喜んだ。
しかし、それは夢に終わり――
申し訳なさそうに、真紀子が首を横に振る。
「あれは私のミスです。せっかく影の石の情報を頂いたのに、コメットを逃がしてしまってコメント一つも取れないなんて」
「仕方ないさ。でも、あれでこそコメットだ」
思ってもみなかった言葉に、真紀子は背の高い神部を見上げた。
「えっ?」
「君だってコメットが簡単に掴まるような怪盗だったら、追いかけたいなんて思わないだろう?」
神部の問い掛けに、素直に肯く。
「それはそうですね。簡単に自分の手に入るようなモノ、欲しいとは思わないですよね」
(逃げられれば追い掛けたくなる……という事は、私にとってはコメットも千聖も似たようなモノかしら)
心の中で呟いて、真紀子はフッと笑った。
それを見ていた神部がまた口を開く。
「でも良い所で会ったよ、真紀子君。君にちょっと訊きたい事があるんだ」
「はい?何ですか?」
不思議そうに見つめる真紀子に、神部は空いている向かい側のソファーを指差した。