DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~
「私のは仕事よ。遊びじゃないの。何時間も緊張しっぱなしで大変なんだから。おまけにいやらしいオヤジの客とかが居ても、文句一つ言えないし。華やかなのは見掛けだけよ」
ビールを口に運びながら、ソファーに座る。
「ちょっと、足退けなさいよ。座れないでしょ」
「―― ったく、たまに帰って来てでかい顔するなよ」
響は、文句を言いながらも起き上がった。
「ところで、さっきの話しだけど」
「なに?さっきの話しって」
「スカイダイビングの話しよ」
「ああ、それか」
響は肩を竦めた。
「別にスカイダイビングの話しなんかじゃないよ」
「だってあんた、落下傘って――」
「俺さ、子供の頃住んでたマンションで、よく落下傘落として遊んでただろ?その事思い出してただけさ」
「ふぅん……そっか」
真澄は残りのビールを一気に飲み干すと、缶をテーブルに置いてソファーに深くもたれた。
「フッ――」
「なんだよ、思い出し笑いなんかして」
肘掛に頬杖をつき、響は真澄をちらりと見た。
「そう言えば、よく落下傘作ってたなぁと思ってさ。それで……いつだったか私のテストの紙で作っちゃってさ、母さんにメチャメチャ叱られて」
「変なこと思い出すなよ」
不満げに唇を尖らせた響に、真澄はクスクスと笑ってから言葉を続けた。
「あの頃のあんた、毎日千聖君の後ついて歩いてたからね」
「えっ?」
響は思わず聞き返した。
「千聖――?」
「ああ、あんた覚えてないかもしれないね。まだ小学校1年生くらいだったから」
伸ばした右腕に左腕を引っ掛けて、グイッと引きながら真澄が答えた。
「それって隣の?」
「そうよ。覚えてるの?」