DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~

「さすがにあの時は、おばさんに叱られてたわ」

(そういえば、あの夜の落下傘は何処から来たんだろう?)

「だけど本人はケロッとして」

(あれは―― そうだ。花火だ。船が近付いて来て、花火があがったのと同時に……ん?)

「『僕の作った落下傘すごいでしょ』って」

(そうか、落下傘の入った花火。船から花火で打ち上げたんだ。じゃあ、いったい誰が?何のために?)

「今思えば、ちょっと変わった子だったわね」

(未央はその事を知っていたのか?知っていてあそこへ行きたがったのか?)

「確かに頭は良さそうだったけど」

(いや、あの落下傘を手に入れるためにあそこへ行った―― そう考えた方がいいかも知れない)

「――?響、聞いてるの?」

 真澄の声にハッと我に帰る。

「え?あ?ああ……」

 今はもう真澄のする話など、どうでも良かった。

 落下傘という一つのキーワードだけが、頭の中をぐるぐる回っていた。

「悪い。俺、塾の時間だから」

 気の無い返事をして立ち上がる。

「なによ、自分で質問しておいて――」

 不満そうな真澄を残して一旦部屋に戻ると、響はリュックを背負って玄関を出て行った。

「何なの?あいつ……。でも千聖君、きっとカッコ良くなってるだろうなぁ。だけど私より五歳も年下か―― 残念だなぁ」

 真澄はもう一度冷蔵庫を開けて、また缶ビールを取り出した。




…☆…


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