DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~

 静かに裏口のドアを開ける。

 その隙間から外に出て、ホッと溜め息をつく。

「回収完了。思ったより楽だったわ。私も少しは成長してるって事かな。それに、千聖の下見のおかげね」

微笑んで標的をポシェットにしまい、未央はいつものようにローラースケートで走り出した。

 駅裏の繁華街。

 酔っ払いを縫うように駆け抜ける。

 そのままどんどん走り続けて、未央は人気のない小さな公園に滑り込んだ。

「あとはこれを渡せば――」

 辺りを見回す。

 反対側の入り口近くにいた女性が、待ちかねたように近付いてきた。

「ティンク?」

「エンニィ?」

「ドウデシタカ?私ノパスポート、アリマシタカ?」

「大丈夫。ちゃんと回収したわ」

 その言葉にエンニィは微笑んだ。

 数日前――





「オ願イシマス。私ノパスポート、アノ人カラトリカエシテクダサイ」

 フィリピンからやって来たエンニィというその女性は、未央の手をしっかりと握り締めた。

「私、アノ人ニ騙サレタ。日本来タラ、オ金イッバイ稼ゲルノ言葉信ジタ。デモ――」

 駅裏の繁華街で東南アジアの女性ばかりを集めてキャバレーを経営しているという女性から、パスポートを取り返してくれというのだ。

「オ金、タシカニフィリピンヨリイッパイ。デモ生活費、言ッテイッパイトラレル。部屋ノオ金、食事ノオ金、一日ノ半分ヨリタクサントラレル。オ金チットモ貯マラナイ。ソレニ、休ミクレナイ。夜遅クマデ仕事。イヤナオ客サントデート。私、疲レタ。フィリピン帰リタイ。モウ仕事ヤメル言ッタ。ソウシタラアノ人、パスポート取リ上ゲタ。私、国ニ帰レナイ。帰レナイ……」

「エンニィ……」

「ママニ会イタイ……会イタイデス……」

 泣き出したエンニィの肩にそっと手を置くと、未央は顔を覗き込んだ。



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