DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~

 自分と同じくらいの年頃。

 いくらお金を稼ぐために自分から出て来たといっても、全く知らない国。

 違う生活習慣。

 違う言葉。

(たった一人でどんなに心細いだろう。どんなにママに会いたいだろう。ママ……か。そうだよね。会いたいよね。出来るなら私だって……)

 少し複雑な顔で微笑むと、未央は口を開いた。

「安心して、大丈夫。きっと私がパスポートを取り返してあげるから。だからもう泣かないで」

「本当デスカ?仕事、引キ受ケテクレルデスカ?」

「ええ。必ず回収するわ。エンニィがフィリピンに帰れるように。ママに会えるように」

「アリガトウ、アナタダケ頼リデス」

 縋るような眼差しに、未央は大きく肯いた。

 そして――




 ポシェットから取り出したパスポートを、エンニィに手渡す。

 エンニィはパスポートを受け取り、しっかりと胸に抱き締めた。

「アリガトウ、アリガトウ。コレデ国ニ帰レル。ママニ会エル。アナタ私ノ命ノ恩人。一生忘レナイ」

「何か……大げさね」

 未央は照れて頭を掻いた。

「ソンナコトナイネ。ティンク、私ニトッテハ神様ト同ジ。アリガトウ百回言ッテモタリナイ」

 エンニィは両手を顔の前で合わせ、これ以上ないという笑顔で微笑んだ。

 未央も微笑む。

「エンニィ、元気でね」

「アリガトウ。ティンクモ元気デネ」

 嬉しそうに去っていくエンニィを見送り、未央は大きく深呼吸をした。

 いつの間にか空は雲に覆い隠されて、今にも雨が降りそうになっていた。

「さて―― と。帰って宿題やらなくちゃ。たっくさんあるのよね」

 呟いて出口の方へ歩き出した未央に向かって、誰かが近付いてくる。

 その人影が青白い街灯の下に立ち止まった瞬間、未央の足がピタリと止まった。



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