DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~
身体中の血が、音を立てて引いていく。
「響――」
「未央、おまえ……」
心臓が、今にも壊れるのではないかと思えるほどドキドキしている。
「どうして……」
「塾の先生の家に行ってたんだ。そこの駅の傍の。俺、駅前でおまえを見かけて、今頃何処へ行くんだろうって心配になって、それで――」
「話し……聞いたのね?」
小さな声で訊いた未央に響が頷く。
「……ああ」
「そう……」
未央が視線をそらせる。
響は未央の前に回り込むと、腕を掴んで顔を覗き込んだ。
「ウソだろ?さっきの話し。おまえが回収屋のティンクだなんて」
「………」
「な、ウソだって言ってくれよ」
「………」
「未央!」
必死で否定の言葉を求める声に、未央は顔を上げて少し微笑んだ。
「ホントだよ。私がティンクなんだ」
その笑顔が引きつる。
響はその言葉が信じられず、視界に未央を捕らえたまま首を数回横へ振った。
「ゴメンね響。今まで黙ってて」
「それじゃあ……もしかしたらあの晩の落下傘――」
「そう。あの落下傘を回収しに行ったの。響を騙して、響を利用して……酷いよね、最低」
「未央……」
未央は大きく息を吐くと、また足元へ視線を落とした。
「私、ずっとずっと恐かった。こんな日が来ること。パパや響に知られること。でも、やめられなかった」
「何で……どうしてこんな事!泥棒だぞ !? 分かってるのか?」
「うん、分かってる。いけない事だっていうのは、分かってるよ響。でも私には目的があったから、やめるわけには行かなかったの」
「本当のお父さんが描いた絵の事か?」
響は、いつか読んだティンクに関する新聞記事を思い出した。
同時にその記事を書いたのが、千聖だという事も。