DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~
「小野寺未央さんだね?向坂千聖君と一緒に暮らしている」
「どなたですか?何故そんな事――」
「私は彼の事なら何でも知っている。何でも―― ね」
近付いてきた背の高い男の言葉に、未央は息を飲んだ。
その男の醸し出す雰囲気。
そう……背筋がゾッとするような――
じっと立ち尽くす未央を隠すように、響が前に出る。
「それがどうしたんだよ。千聖のこと知ってるヤツが、未央に何の用なんだ?それに『同じ穴のムジナ』って何なんだよ?」
「フッ――」
その問い掛けには答えずに、男はただ笑った。
「何がおかしいんだよ !?」
「それは君が自分で彼に訊けばいい」
途端、響がムッとした顔をする。
「分かったよ。行こうぜ未央」
そう吐き捨てて未央の手を引き出口の方へ歩き出した響の前に、男が立ちふさがる。
響は男の行動に不満を露にした。
「何だよ」
「悪いが、行くのは君だけだ」
「え?」
「彼女は私と来てもらう」
「な――?」
次の瞬間――
ドスッという鈍い音と共に、響は腹を抱えてその場にうずくまった。
「響!」
「くっ……」
「響!しっかりして!」
苦しそうな響の肩をしっかりと掴んで、未央は顔を上げた。
「あなた……誰なの?いったい何を――」
「私は神部。彼から聞いていないのかね?」
背の高いその男が、問い掛けながら未央に歩み寄る。
「未央……逃げろ……」
腹を抱えたまま、響は呻くように声を漏らした。
しかし、まるで蛇に睨まれた蛙のように未央は全く動けずにいた。
「あ………」
足が言う事を聞かない。
目の前の男の威圧感に、すっかり飲み込まれている自分が分かる。
「くっそぉおおっ!」
響はただならない未央の様子に、咄嗟に立ち上がり神部にしがみついた。