DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~

「小野寺未央さんだね?向坂千聖君と一緒に暮らしている」

「どなたですか?何故そんな事――」

「私は彼の事なら何でも知っている。何でも―― ね」

 近付いてきた背の高い男の言葉に、未央は息を飲んだ。

 その男の醸し出す雰囲気。

 そう……背筋がゾッとするような――

 じっと立ち尽くす未央を隠すように、響が前に出る。

「それがどうしたんだよ。千聖のこと知ってるヤツが、未央に何の用なんだ?それに『同じ穴のムジナ』って何なんだよ?」

「フッ――」

 その問い掛けには答えずに、男はただ笑った。

「何がおかしいんだよ !?」

「それは君が自分で彼に訊けばいい」

 途端、響がムッとした顔をする。

「分かったよ。行こうぜ未央」

 そう吐き捨てて未央の手を引き出口の方へ歩き出した響の前に、男が立ちふさがる。

 響は男の行動に不満を露にした。

「何だよ」

「悪いが、行くのは君だけだ」

「え?」

「彼女は私と来てもらう」

「な――?」

 次の瞬間――

 ドスッという鈍い音と共に、響は腹を抱えてその場にうずくまった。

「響!」

「くっ……」

「響!しっかりして!」

 苦しそうな響の肩をしっかりと掴んで、未央は顔を上げた。

「あなた……誰なの?いったい何を――」

「私は神部。彼から聞いていないのかね?」

 背の高いその男が、問い掛けながら未央に歩み寄る。

「未央……逃げろ……」

 腹を抱えたまま、響は呻くように声を漏らした。

 しかし、まるで蛇に睨まれた蛙のように未央は全く動けずにいた。

「あ………」

 足が言う事を聞かない。

 目の前の男の威圧感に、すっかり飲み込まれている自分が分かる。

「くっそぉおおっ!」

 響はただならない未央の様子に、咄嗟に立ち上がり神部にしがみついた。



< 286 / 343 >

この作品をシェア

pagetop