DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~
MISSION 30 ― カリスマ牧師の教え ―
『千聖……』
真っ暗な闇に、ボウッと未央の姿が浮かび上がる。
『千聖、どこに居るの?』
(未央……)
『何処なの?暗くて何も見えない。恐い―― 恐いよぉ』
未央は立ち上がると、手を伸ばして辺りを探りながら歩き出した。
不安のため、自然と呼吸が荒くなる。
その荒い息遣いの音が響く中を、一歩ずつ進む。
『千聖……千聖……千聖………早く来て』
未央は何度も千聖の名を呼んで、その場にしゃがみ込んだ。
(未央、ここだ!俺はここにいる!)
少し離れた場所に、今度は誰かの姿が現れる。
(誰……だ?)
ポケットから出した手に、何かがキラリと光った。
『クックックッ……こっちだよお嬢さん』
それは笑いを噛み殺すと、ゆっくり顔を上げた。
(神部!神部だ!)
『千聖!どこ?早く来て、千聖!』
未央は再び立ち上がると、全く気付いていない様子で千聖を呼び続ながら徐々に神部のいる方へと進み始めた。
(未央、止まれ!そっちには神部がいる。そっちへ行っちゃいけない!駄目だ!止まるんだ!未央 !!)
『いい子だ……そのまま真っ直ぐ進め。そしてここへ来るんだ。そうしたら御褒美をあげよう』
『千聖……そこにいるの?そこにいるのね?待ってて、すぐに行くから』
(違う!未央、そっちに居るのは神部だ!行っちゃいけない!未央!)
顔の前にナイフを翳し、神部が微笑む。
『いいぞ、もう少しだ』
(未央!止まるんだ!)
『もう少し?もう少しで千聖に会えるのね。早く会いたい。千聖!』
神部が手を伸ばして未央の腕を掴む。
そして身体を引き寄せると、後ろから抱きすくめた。
『千聖―― やっと会えたね。嬉しい……千聖大好きだよ』
(違う!それは神部だ!未央、逃げろ!逃げるんだ!)
『いい子だ。そんなに彼が好きか?それなら今すぐ会わせてやろう』
(未央!)
『あの世で――』
ナイフを握った手を、未央の胸めがけて振り上げる。
(未央!未央!未央 !!)