DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~

 その日の午後。

 千聖はコートとマフラーを手に、クリスマス間近の賑う街へ飛び出した。

 真紀子も一緒だ。

 道路が混んで時間が読めないからと、車を使わずに電車で取材現場に向かう。

人混みに揉まれていても、千聖の頭の中は未央の事でいっぱいだった。

 中吊りの広告に目をやる。

「北海道か――」

 牧場の写真だ。

(牧場……馬……飼い葉桶………飼い葉桶の底……何処なんだ?未央……)

 夢の中の恐ろしい光景が頭を過ぎって、額に手をやる。

「どうかした?」

「いや、何でもない」

 真紀子の声に現実に戻る。

 窓の外に視線を移した千聖を、真紀子はじっと見つめた。

(千聖……どうしたの?昨日から何か変だわ)

 目的の駅で電車から吐き出されるように降りると、目指す牧師のいる教会はすぐだった。

 尖った茶色の屋根の小さな教会。

 そのてっぺんには、お約束の十字架。

 表には、クリスマス集会と書かれた立て看板が立っている。

 そして噂どおり、礼拝堂には沢山の高校生の姿があった。

 一旦、取材の挨拶をしに奥の部屋へ向かう。

「よくいらっしゃいました」

微笑んで握手を求めてきたカリスマと呼ばれるその牧師は、まだ若い青年だった。

 しかし、穏やかな眼差しと静かな物腰に、思わず全てを打ち明けて縋りたくなる―― そんな雰囲気を持っていた。

「取材させていただきます、重蔵と――」

「向坂です。よろしくお願いします」

「中森です。お話は伺っています。こちらこそよろしく」

 中森牧師が微笑んで、言葉を続ける。

「私の話が、あなたの捜し求めているものを見付ける切っ掛けになれば幸いです」

「えっ?」

 千聖は思わず中森を見つめた。


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