DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~
「私はいつも、そう思って話しをしているだけです。その結果、こうやって大勢の方がこの教会を訪れて下さるようになりました。神はいつでも私たちと共にあります。私たちを見ていて下さいます。努力は必ず報われるのです。それがほんの僅かなものであっても、希望を捨ててはいけません。そうでしょう?」
まるで心を見透かされているような中森の言葉に、千聖は視線を落とした。
「では、まいりましょう。みなさんがお待ちです」
二人を促し、中森は大勢の信者が待つ礼拝堂へと向かった。
その後に続く。
「なんだか圧倒されるような雰囲気の持ち主ね」
小声で話し掛けた真紀子に千聖が答える。
「ああ。それがカリスマと呼ばれるゆえんだろう」
「人間、年齢や経験だけでは身に付けられないものもあるって事ね。とにかく、話しを聞いてみましょう」
礼拝堂の中、最も後ろの壁際に陣取り中森を待つ。
祭壇横のドアが開き、大きな十字架の前に中森が立つ。
途端に、ざわついていた礼拝堂の中は水を打ったようにシンとなった。
「大したものだわ。お偉い大学の先生だって、こうはいかないわ」
あまり人を誉めない真紀子が中森を誉めたのを見て、千聖は笑いを噛み殺した。
胸の前で腕を組んで壁にもたれ、カリスマ牧師を見つめる。
今日の講話の内容はクリスマス前という事で、受胎告知からイエスキリストの生誕までに関するものだ。
「聖母マリアは夫ヨゼフと共に、旅の途中一軒の馬小屋で夜露をしのがれることとなりました。十二月二十四日のことです。そしてその夜、その小さな馬小屋で主イエスはお生まれになったのです」
中森牧師の澄んだ声が礼拝堂に響く。
見るからにつっぱっているという感じの高校生がおとなしく話しを聞いている様は、ビデオにでも撮って担任の教師に見せてやりたかった。