DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~

 ふと目をやったステンドグラスから、射し込む光が美しい。

『うわぁあ!綺麗!』

 中央美術館でステンドグラスを見上げていた未央を想い出して、千聖は静かに目を閉じた。

 中森の話は続く。

「しかしその馬小屋には、当然暖かい毛布もゆりかごもありませんでした。聖母マリアは仕方なく飼い葉桶に馬の餌である藁を敷き詰め、その中に主イエスを寝かされました。それでも我等が主イエスは、微笑んでおられました。藁の毛布を纏い、飼い葉桶のゆりかごの中にあっても、父と母の暖かい愛に包まれていることを御存知だったのでしょう」

「飼い葉桶の―― ゆりかご……?」

 千聖は突然心臓が大きく波打つのを感じた。

「ゆりかご……クレイドル。ゆりかごは英語でクレイドルだ!」

 【飼い葉桶の底】は神部の船、クレイドル号の船底を表していたのだ。

「なに?―― えっ !? 千聖!何処へ行くの !?」

 突然礼拝堂を出て行こうとした千聖の腕を、真紀子は掴んだ。

「悪い、真紀子。後は頼むよ」

 中森の講話を邪魔しないように、小声で耳打ちする。

「何言ってるの!まだ取材の途中よ」

「これもまた君のおかげだよ。全て上手く行ったら、あとできっと埋め合わせするから」

 肩を掴んで軽くウインクをすると、呆気に取られる真紀子を後目に千聖はアッという間に教会を出て行ってしまった。

「な―― なに?私一人で取材しろっていうの?社に戻ったら、デスクになんて言えばいいのよ!ちょっと――!」

 後を追おうとして、真紀子は足を止めた。

 頬に手を当ててニッと笑う。

「でも、ま、いいか。『あとできっと埋め合わせする』って言ってたものね。フフッ……楽しみにしておきましょう」

(あの方も、捜し物が見つかったようですね)

 話しをしながら千聖と真紀子のやり取りを見ていた中森は、穏やかに微笑んだ。



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