DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~
MISSION 31 ― ゆりかごの底で ―


 クレイドル号はその名の通り、暗い波間でゆりかごのように揺れていた。

 静かな埠頭。

 以前、米村瞳とここを訪れた時とは大違いの静けさだ。

「未央……」

『なんかドキドキする。いよいよラストダンジョン突入って感じね!』

 未央が傍に居たらそう言いそうな気がして、思わずフッと笑う。

「待っているのは、ヒロインとラスボスか……」

 呟いて大きく息を吸い込む。

 冷たい潮風が頬を掠めて、耳元でヒュウッと音を立てた。

「よし――」

 革の手袋をキュッと嵌め、千聖は静かに足を踏み出した。

 薄暗いクレイドル号の中を、一歩一歩踏みしめるように進む。

 そして、緑色の非常灯の下に立っていた男の前で立ち止まった。

「神部……」

「やあ、来たね。そろそろ来る頃だと思っていたよ」

 男は黒いコートのポケットに手を入れたままで、微笑んだ。

「未央は無事なんだろうな?」

「ああ、あの娘が大人しくしていてくれたので、殺さずにすんだよ。夕方までは、特別室で大切に預かっていた。今は……クックックッ……」

 神部の笑い声に、カアッと頭が熱くなる。

「未央は何処だ !? 何処にいる !?」

 自然と声が大きくなった。

 神部がフッと笑う。

「若いというのは良い事だ。たった一人の女のために、命を懸ける事も厭わないのだから」

「大切なものを護るために、命を懸けて何が悪い?そんな事より質問に答えろ!」

「早く会いたいか?そして抱きたいか?例えば彼女が君の知っている少女ではなくなって、女になっていても――」

「神部 !!」


< 306 / 343 >

この作品をシェア

pagetop