DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~
MISSION 31 ― ゆりかごの底で ―
クレイドル号はその名の通り、暗い波間でゆりかごのように揺れていた。
静かな埠頭。
以前、米村瞳とここを訪れた時とは大違いの静けさだ。
「未央……」
『なんかドキドキする。いよいよラストダンジョン突入って感じね!』
未央が傍に居たらそう言いそうな気がして、思わずフッと笑う。
「待っているのは、ヒロインとラスボスか……」
呟いて大きく息を吸い込む。
冷たい潮風が頬を掠めて、耳元でヒュウッと音を立てた。
「よし――」
革の手袋をキュッと嵌め、千聖は静かに足を踏み出した。
薄暗いクレイドル号の中を、一歩一歩踏みしめるように進む。
そして、緑色の非常灯の下に立っていた男の前で立ち止まった。
「神部……」
「やあ、来たね。そろそろ来る頃だと思っていたよ」
男は黒いコートのポケットに手を入れたままで、微笑んだ。
「未央は無事なんだろうな?」
「ああ、あの娘が大人しくしていてくれたので、殺さずにすんだよ。夕方までは、特別室で大切に預かっていた。今は……クックックッ……」
神部の笑い声に、カアッと頭が熱くなる。
「未央は何処だ !? 何処にいる !?」
自然と声が大きくなった。
神部がフッと笑う。
「若いというのは良い事だ。たった一人の女のために、命を懸ける事も厭わないのだから」
「大切なものを護るために、命を懸けて何が悪い?そんな事より質問に答えろ!」
「早く会いたいか?そして抱きたいか?例えば彼女が君の知っている少女ではなくなって、女になっていても――」
「神部 !!」