DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~
「もういいのかね?もう少し時間をかけても構わないよ。何なら二人きりにしてやってもいい」
「それは帰ってからにするよ。未央を船から降ろしてやってくれ」
「残念だが、それは無理だ」
神部がそう言い終えたとほぼ同時だった。
突然、船がゆらりと揺れた。
「まさか……」
「そう、そのまさかだよ。船はたった今出港した。そして全てが終わるまで、もう誰も邪魔できない」
「あんた以外にも人が居るって事か」
訝しげに眉を顰めた千聖に、神部が肯く。
「ああ、そのうちここへ来るよ。結果を見に」
「取引のか?―― それじゃあその内容を聞かせてくれ」
話を本題に移した千聖に、神部はニヤリと笑った。
「彼女を返す代わりに【宝の箱】の中身と―― 君の命を貰いたい」
「俺の……命?」
「そう。君の命だ」
「千聖!」
未央は思わず千聖の腕にしがみついた。
「だから、もう少し二人きりの時間をあげてもいいと言ったんだ。この世の別れなんだから、悔いが残らないように」
(俺の命――?)
心の中で問い掛けながら、片手で顔を覆う。
数秒の後、千聖は大きく息を吐いて口を開いた。
「分かった」
「千聖!何言ってるの !? そんな馬鹿な取引やめて!」
「未央……仕方ないんだ。君を助けるにはこうするしか――」
「嫌……そんなの嫌!」
未央は茶色の髪を揺らして、激しく首を横に振った。
「私、そんなので助けて貰ったって嬉しくない!嫌だ!嫌!絶対に嫌、嫌ぁああぁ……」
「未央――」
泣き出した未央をしっかり抱き寄せて、耳元で囁く。