DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~

「もういいのかね?もう少し時間をかけても構わないよ。何なら二人きりにしてやってもいい」

「それは帰ってからにするよ。未央を船から降ろしてやってくれ」

「残念だが、それは無理だ」

 神部がそう言い終えたとほぼ同時だった。

 突然、船がゆらりと揺れた。

「まさか……」

「そう、そのまさかだよ。船はたった今出港した。そして全てが終わるまで、もう誰も邪魔できない」

「あんた以外にも人が居るって事か」

 訝しげに眉を顰めた千聖に、神部が肯く。

「ああ、そのうちここへ来るよ。結果を見に」

「取引のか?―― それじゃあその内容を聞かせてくれ」

 話を本題に移した千聖に、神部はニヤリと笑った。

「彼女を返す代わりに【宝の箱】の中身と―― 君の命を貰いたい」

「俺の……命?」

「そう。君の命だ」

「千聖!」

 未央は思わず千聖の腕にしがみついた。

「だから、もう少し二人きりの時間をあげてもいいと言ったんだ。この世の別れなんだから、悔いが残らないように」

(俺の命――?)

 心の中で問い掛けながら、片手で顔を覆う。

 数秒の後、千聖は大きく息を吐いて口を開いた。

「分かった」

「千聖!何言ってるの !? そんな馬鹿な取引やめて!」

「未央……仕方ないんだ。君を助けるにはこうするしか――」

「嫌……そんなの嫌!」

 未央は茶色の髪を揺らして、激しく首を横に振った。

「私、そんなので助けて貰ったって嬉しくない!嫌だ!嫌!絶対に嫌、嫌ぁああぁ……」

「未央――」

 泣き出した未央をしっかり抱き寄せて、耳元で囁く。


< 309 / 343 >

この作品をシェア

pagetop