DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~

「未央、未央。大丈夫、俺は『分かった』って言っただけだ。絶対に殺られたりしないよ。俺に任せておけ」

「ホン……ト?それ……ホントね?」

「ああ、大丈夫だから。だってデートする約束だろう?クリスマスの夜に」

『とにかく俺に任せておけばいいんだ』

 そう……いつだって大丈夫だった。

 いつだってちゃんと助けてくれた。

 だから――

 だから今度も大丈夫。

 何の根拠も無い。

 だがしかし、不思議と千聖の言葉に嘘は無いと思えた。

 涙を拭って未央が微笑むと、千聖はもう一度未央を抱き締めた。

 それから未央から離れ、ゆっくりと壁に埋め込まれた【宝の箱】に向かう。

 その前に立ち止まってから、千聖は思い出したように口を開いた。

「一つ訊いてもいいか?」

「なんだね?」

「俺はずっと不思議だったんだ。影を持つ石も人魚の絵も、宝の箱のある船も全てあんたの手の内にあった。なのに何故、あんたは自分で最後の謎を解かなかったんだ?」

「その事か」

 神部は煙草を取り出すと、火をつけた。

「それは俺じゃなくて【あの方】から聞くといい」

「あの方?」

「そう、【あの方】だよ。私は、あの方の立てた計画を実行していただけなのだから」

 あの方……そうだ。

 永池秋江もそう言っていた。

 何処からか、足音が響いてくる。

「ああ、あの方が見えたようだ」

 紫煙を燻らせ、神部が微笑む。

(【あの方】とはいったい誰なんだ?石を奪い、父さんと母さんを殺す計画を立てた張本人とは?)

 千聖は拳をギュッと握り締めた。

 足音がどんどん近付く。

 階段を下りて来る。

 ギギギ……と音がして扉が開いた途端――

 千聖は目を見開いた。



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