DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~


「嘘だ……そんな馬鹿な事があってたまるか……」

「千聖?どうしたの?」

 心配そうに、未央が声をかけても、千聖はただ呆然とそこに立ち尽くしていた。

 入ってきた男は、千聖の様子にフッと微笑んだ。

「千聖。久し振りだな」

「父さん……本当に……父さんなのか?」

「そうだ。私は、正真正銘の向坂裕一だよ」

 その言葉に未央も驚いて、向坂裕一と名乗ったその男性を見つめた。

 向坂裕一。

 千聖の父親。

 でも千聖の父は、五年前にホワイトローズ号の事故で亡くなったはずだった。

 なのにどうして――

「今までの事は、全て私の立てた計画だ」

「それじゃあ、五年前に死んだのは誰なんだ……」

「あの男は、私の身代わりだよ。わずか百万円で、自分の名前と命を売った馬鹿な男だ。最も本人は、命まで売ったつもりは無かったようだが」

 裕一は目を細めて、千聖をじっと見つめた。

「何故……?どうして……」

「まだ信じられないようだな」

 あの方――

 そう呼ばれていたのは、父だった。

 それでは……それでは――

「それじゃあ母さんを殺したのは !?」

「私だよ。私が神部に命じて、香里と、私に扮したあの男を殺させた」

 裕一の答えに、千聖は首を横に振った。

「そんな―― 何故……何故なんだっ !? 何故そんな事をっ !?」

「知りたいか?その理由を」

 千聖が震える唇をキュッと噛み締める。

 裕一は、ゆっくりと歩きながら話し始めた。



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