DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~
「私は、香里とおまえを愛していた。二人は何にも変えがたい宝だった。だから本当の事を知った時、香里とおまえを殺したいほど憎んだ」
「本当の事?何だよ……どういう意味だよ !? 何で殺したいなんて――!」
声を上げた千聖を視界に捉えながら、裕一は僅かに口角を引き上げた。
「おまえが、香里とそして私の養父である佐々木隆利の息子だったからだよ」
「えっ――?」
千聖の胸で、心臓が大きく波打った。
「……じいちゃんが?」
「養父は香里を可愛がっていた。香里もまた養父を慕っていた。私が留守がちで香里が淋しいだろうと、よく家に呼び寄せていた。養父も母が死んで、一人だったからな」
そして、佐々木隆利は千聖が生まれてからはマンションへもやって来るようになった。
隆利を見た人みんなが言った。
『千聖君は、お祖父さんに生き写しね』と。
「けれど、似ているはずは無かった。普通なら全く血の繋がりも無いおまえと養父が、生き写しと言われるほど似ているわけは無かったんだ」
そう――
父・裕一は、祖父の佐々木隆利が結婚した恵子の連れ子だった。
だから千聖と祖父とは、一滴の血も繋がってはいない。
その事は、千聖も知っていた。
「ある日、病気療養中だった養父が一時帰宅したと聞いて久しぶりに実家を訪ねた私は、仏壇の前で母の遺影に話しかけている養父の姿を目にした。何となく襖の陰に身を隠して―― その時、養父が手を合わせた後言ったのさ」
『千聖は本当に可愛いよ。私は幸せ者だ。まさかこの年になって、自分の血を分けた子供と幸せな日々を送れるとは思わなかったよ』
「私は確信した。千聖、おまえは養父の子なんだと!今考えれば、まったく馬鹿なことをしたものだよ。知らなければ苦しむ事もなかったのに」
「嘘だ……」
ぽつりと呟き、千聖は首を横に振った。