DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~
「養父は遺産として、あの屋敷を香里に、この船を私に、そして七つの石とメモをおまえに残した。本来なら遺産は直ぐそれぞれに渡るはずだった。が、私はそれを秘密にして、自分で管理した」
裕一は香里に影の石を集めると伝え、時々手に入ったと言っては一つずつ見せていった。
「本当なら全て揃ったままおまえに渡せば、謎はすぐに解けたかもしれない。だが、私が成り代わる予定の男には何も無くてね。その日の生活にさえ困る状態だった」
だから仕方なく売る事にしたのだ。
ただし、全て手の届く所へ。
「宝というキーワードを使えば、貪欲な奴らは簡単に集まった」
そしてホワイトローズ号で、香里と自分の影である男を殺した。
【影の石】を持つ、他の五人の目の前で。
「あれは完璧だったよ。神部以外の全員が、私は死んだと思ったのだから。やがておまえは私の計画通りに私達の死に疑問を持ち、動き始めた。私の思う通りに石を集め、謎を解き―― そしてここへ来た。多少時間はかかったが、お陰で色々と面白い経験をさせてもらったよ」
裕一の話を、千聖は黙って聞いていた。
何故母は……自分は、父に憎まれているのか――
その理由を知るために、一言も漏らすまいと。
「未央を連れ去ったのも、父さんの計画なのか?」
千聖の問いに、裕一は微笑んだ。
「そうだ。途中で思い付いた事だがな。おまえに思い知らせてやりたかったんだよ。大切な物を奪われた私の気持ちを」
身体中の力が抜けてしまう程の衝撃に、千聖は打ちのめされた。
自分の父親が、父と慕っていた人物が、こんなにまで自分を憎んでいるなんて――
自分の存在を、疎ましく思っているなんて――
思わず溢れそうになる涙を必死で止めた。
歯を食いしばって天井を仰いだ千聖に、裕一が告げる。
「さあ、そろそろ【宝の箱】を開けて貰おうか。【石の数を示せば】の意味は、解けているのだろう?」