DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~
突き出された手を左の腕で跳ね上げ、千聖が固く握った右拳を顔目掛けて突き出す。
右へ避けた相手を追い、それを横へ払うように振り切る。
右半身が後ろへ開いたのを利用して飛ばした右回し蹴りを、腹に食い込む直前にまだ膝が伸びていない状態で神部が両手で阻む。
直後、千聖は掴まれた右足へ体重を預け、軸足になっていた左足で床を蹴った。
素早く畳んだ左足を使い、空中で神部の顎へ向けて蹴りを飛ばす。
不意を突かれた神部が千聖の右足を放し、両腕を上げてガードする。
しかし、予測もしていなかった動きに身体ごと弾かれ、数歩うしろへ下がった。
不安定な体勢から繰り出した攻撃に、破壊力が無い事は承知の上だ。
元より目的はそこでは無く、相手の不意を突く事。
ガードした神部の腕を弾き飛ばし、後方へ宙返りをして降り立つと、千聖は直ぐに床を蹴った。
瞬発力を生かして一気に間を詰める。
直ぐに右回し蹴りを放つ。
左腕を体側へつけ、ガードした神部が数歩うしろへ退く。
それを追って即座に前へ飛び出し、勢いに乗ったまま振り切った右拳が左頬に炸裂し、神部が壁にぶち当たる。
更に追い撃ちを掛けるために、前へ出る。
が、その時――
神部が千聖の顔をめがけ、左手を振り上げた。
飛び出したワイヤーが、目にも留まらぬ速さで耳元を掠める。
ヒュッと音がして黒髪が散る。
頬に出来た真っ赤な線に血が滲む。
ハッとしてほんの僅か動きを止めたその瞬間、素早く伸びてきた手に千聖は髪を捕まれた。