DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~
MISSION 32 ― 箱の中の真実 ―

 開け放たれたドアに縋り付くようにして、誰かが立っている。

 その姿に、裕一は驚いて目を見張った。

「永池秋江……?どうしてここに。あんたは――」

「今頃は、病院で死にかけているはず―― そう仰りたいのでしょう?でも、私はこんなに元気よ。あの時傍にいた千聖さんが咄嗟に突き放して下さったおかげで、掠り傷程度で済んだのよ」

「神部!しくじったな!」

 裕一は神部を睨み付けた。

「やっぱり、私を狙わせたのはあなたでしたのね。そして直接手を下したのは神部さん、あなたね」

 神部は肩を竦めて千聖を突き放し、ナイフをポケットに戻した。

「フッ……そうですよ、秋江さん。あなたを狙わせたのも、赤峰を自殺に見せかけて殺したのも、全て私が指示したこと。お二人は、私の計画の邪魔をしようとしましたからね」

 裕一の言葉を聞き、未央は思わず神部に視線を移した。

『人って分かんないもんだよね。才能があって金が稼げて女にもてて、おまけにあんなに華やかな生活してて何が面白くなかったんだか』

 あの時の、記者の言葉を思い出す。

 やはり、自殺ではなかったのだ。

 赤峰は【エターナル・グリーン・アイビー】を千聖から取り返そうとした。

 だから殺された。

 千聖の母も、裕一の身代わりの男も、赤峰も、みんな神部に――

 その神部が同じ船室に居る事が改めて恐くなり、未央は思わず手を握り締めた。

「裕一さん、あなたは間違っているわ。私はそれを言いたくて、ここへ来たのよ」

ドアから手を離し、倒れそうになった秋江を未央が支える。

 秋江は未央に向かって微笑むと、また裕一に視線を移した。


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