DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~
「私が間違っている?フッ……私の何処が間違っているというのです?」
「隆利さんが本当に言いたかった事を、あなたは心を閉じて聞こうとしなかった。それが全ての始まりだったのよ」
「なに……?」
裕一は、目を細めて秋江を見た。
「私が子供の頃から身体が弱かった事は、あなたも御存知でしょう?隆利さんは頭の良さを認められ、十五歳の時、私の家庭教師として両親が孤児院から引き取った人。彼は離れに住み、自分も学校へ通いながら毎日勉強を教えてくれました。隆利さんは優しく、何事にも一生懸命で、キラキラ輝く瞳を持っていました」
そんな隆利が秋江の心を引き付けるのには、さほど時間はかからなかった。
幸せな事に、いつかしら隆利も同じ気持ちで秋江を見るようになり――
五年の間、二人は常に一緒に過ごした。
雨の日も風の日も、夏の日も冬の日も。
しかし、想い合う二人の気持ちを知った秋江の父は、ある日隆利を母屋に呼びつけ無抵抗の彼を木刀で何度も殴り付けたのだ。
そして隆利は、大怪我をした上に屋敷から出ていくようにと命じられた。
「その事を知った私は、彼に自分を連れて行ってくれるようにお願いしました。でも隆利さんは、首を横に振ったのです。『僕は旦那様に恩がある。それに明日の生活もままならない僕では、あなたを連れて行く事は出来ない』と。私たちはその日、最初で最後の夜を過ごしました。隙間風の吹き込む小さな納屋で、もう二度と会えない事を知りながら――」
秋江はそこまで話すと、フゥッと溜め息をついた。
「隆利さんと別れて十ヶ月後、私は子供を産みました。両親に隠し通した、愛する隆利さんの娘を」
だが、当然のようにその子を自分で育てる事は赦されない事だった。
そして娘は生まれて間もなく、秋江の父の知り合いの元へ里子に出されたのだ。
もちろん、秋江にその行き先が知らされる事は無かった。