DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~
「さて―― 取り込み中悪いが、そろそろ仕事を再開させてもらおうか」
暫くして、口を開いた神部の声に、裕一は顔を上げた。
「神部、聞いていただろう?仕事は終わりだ」
その言葉に神部はフッと笑った。
「そうか……いいだろう。あんたの息子の分は、キャンセルしてやろう。個人的にも、今殺してしまうのは惜しかったからな。だが―― 後始末はさせてもらう」
直後に響いた突然の破裂音に、未央は耳を押さえた。
思わず向けた視線の先、神部の手に握られた銃がこちらを向いている。
が、次の瞬間、すぐ横にいた秋江が床に崩れ落ち今度は悲鳴を上げた。
「キャァアアアァッ !!」
「秋江さん!」
駆け寄った千聖が秋江を抱き起こす。
秋江は千聖の声にうっすらと目を開けた。
「隆利……さん……?……あぁ……隆利さん……だ……わ………私を迎え……に?」
「秋江さん!しっかりするんだ!」
「嬉しいわ……やっと会えた……もう………二度と……離れ………な………い………………」
そしてそのまま幸せそうに微笑み、目を閉じた。
「秋江さん!……秋江………さん……」
『長い間あなたに会う日を待っていたからですよ』
「嘘……そんな。せっかく千聖に会えたのに……本当のこと言えたのに!酷い!酷いわ !!」
未央は両手で顔を覆って、首を横に振った。
『ええ、元気でしたよ。だって元気にしていれば、またあなたにお会いできるんですもの。隆利さんに生き写しのあなたに会うこと。今の私にこれ以上の薬はありませんわ』
輝く月光の下――
あの時の秋江の、穏やかな笑顔が脳裏に浮かぶ。
うつむいた千聖の握り締めた拳に、雫が一粒落ちる。
それを振り落とすように立ち上がると、シャツの袖で顔を拭い千聖は神部を睨み付けた。