DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~
「未央とあんたを連れてここから脱出するのは、俺には無理だ。だからあんたは自力で逃げろ。そして、生きて罪を償え。それがあんたのするべき事だ」
「それは、新聞記者としての正義感か?」
「残念だけど、そんなモノは持ち合わせて無い。自分を含めて、命を粗末にするなという祖父の遺言に従うだけだ」
「明るい光の当たる道を、何処までも真っ直ぐに進もうという事か……」
神部は部屋の中央に足を止め、フッと笑った。
「一つ覚えておくといい。明るければ明るいほど、光が強ければ強いほど、影は色濃くなるものだという事を。君のように強い意志を持つ人間ほど、闇に染まれば果てし無く深い影になる。私のようにね」
その時、また何処かで爆発音が響いた。
「三発めか !?」
船が大きく揺らぐ。
直後、耳障りな金属音に千聖は視線を上げた。
「天井が――」
船室内の剥き出しの配管が、ガラガラと音を立てて降ってくる。
金属の板が、ビスを弾き飛ばして剥がれ始める。
引きちぎられた配線が垂れ下がり、線香花火のように火花を散らす。
神部はその中に、平然と佇んでいた。
「神部!早く逃げろっ !!」
扉に掴まっていた千聖が叫び声を上げる。
それでも神部は動かずにいた。
金属の軋む音を響かせ今にも崩れ落ちそうな天井に、千聖が思わず船室へ飛び込もうと足を動かす。
だがそれは、一歩も踏み出す事無くその場に留まった。
目の前で危険に晒されている命があるというのに、踏み出せない――
そんな自分に千聖は唇を噛んだ。
その様子をじっと見ていた神部は目を細めた。